水彩
水彩絵具は、顔料をアラビアゴムで練ったものにグリセリンを加えて造ります。グリセリンとは保湿剤のことです。水彩絵具のチューブは年月の経過とともに、蒸発乾燥してコチコチに固まってしまいます。そこで保湿剤を使って固まる時期を遅らせます。
しかし一度固まった水彩絵具ではもう使えないのかというと、かならずしもそうでなく、チューブを開いて固まった絵具を取り出してからそれを水に浸けておくと、やがて溶解して蘇ります。粘度が失われた場合には、アラビアゴム水溶液で練り直すとよいでしょう。
初めから固形化された水彩絵具も市販されています。固形絵具は便利なものですが、大量に使う時に労力が要ります。
大まかに分けて、水彩には二種類があります。普通一般に「水彩」と呼ばれているものは、厳密に言うと透明水彩(アクアレル)です。一方学童が学校で使う水彩を不透明水彩(ガッシュ)と言います。おもに透明水彩はイギリスで発達し、不透明水彩はフランスで発展しました。
透明水彩(アクアレル)は、原則として白絵具を使いません。紙の白地を白と見立てて描きます。パソコンプリンターのインクと同じ原理です。しかし「セットには白絵具が入っているではないか」という疑問もあります。これは修正用というか、どうしても困ってしまった時に修正用として使います。
一方不透明水彩(ガッシュ)は白を積極的に使います。油絵のように厚塗りしたり、強引に上から重ねることもできます。しかし色の純度は透明水彩には及びません。不透明水彩絵具には顔料、アラビアゴム、グリセリンに、粘土質が加えられています。ピカソ、デュフィ、シャガールなどの画家がガッシュをうまく使っています。
ポスターカラーというのはガッシュと似ていて、ほぼ同じに使えます。特徴としては平塗り(ベタ塗り)がしやすいこと、色彩が鮮明であることなどです。ポスターカラーは顔料をデキストリン(澱粉糊)で練って造ります。これも教材に適した優れた絵具です。
ちなみに私は不透明水彩を使って制作することが多いので、ここで一言コメントさせていただきます。不透明水彩絵具で描かれた作品を「水彩らしさがなくて、まるで油絵のようだ」と言う人がいますが、私はむしろ、油絵具で描かれた立体感に欠ける作品を「まるで水彩のようだ」と言うべきではないかと思います。本来の油絵というのは、グラッシを多用した立体感あふれる技法で描かれる方が自然です。
各絵具の性質は油絵具に準じますので、そちらをご覧下さい。以下は油絵具と異なった水彩絵具についてだけ述べます。
◆チャイニーズホワイト
チャイニーズホワイトは油絵具のチタニウムホワイトと同じです。油絵具のチタニウムホワイトは着色力が強すぎるという欠点がありましたが、同じ素材が水彩絵具となった場合は、屈折率の関係でこの欠点も無くなっています。同じことが白亜にも言えます。白亜(炭酸カルシウム)は貝殻を風化させて製造します。日本画では胡粉という名の白絵具として広く使われていますが、さてこの白亜を油で練ると、屈折率の関係で白味が無くなって透明になってしまいます。白亜は油絵具用の顔料には向いていないのです。白亜は油絵具の体質顔料として使われています。体質顔料とは、強すぎる着色力の顔料を弱めて他の絵具とのバランスを図ったり、単なる増量剤(水増し)として使われる無色透明絵具のことです。
シルバーホワイトが水彩絵具に無いのは、毒性のあるシルバーホワイトの鉛分が水に溶けて流れ出し、環境を汚すからです。
■紙
水彩画は紙(洋紙)に描かれます。画用紙に描くことも出来ますが、水彩専用の水彩紙に描くと良いでしょう。水彩紙の方が紙質が強く、破れ難いものです。
水彩紙には150gとか250gとか表示があります。これは紙の厚さ(正確には重さ)を示しています。数字が大きくなるほど厚くてしっかりした紙になります。
紙は主にパルプを原料としていますが、そのまま描くと滲みが出やすいので、製造工程でサイズという充填剤を加えます。サイズは、膠、松脂、ポリビニールア ルコールなどが使われます。ツルツルの光沢感のある紙などは、サイズを大量に含んでいます。サイズが多いと、乗りや発色が良いのですが、耐久性に問題が出 てきます。
アルシュやファブリアーノのような高級水彩紙は手漉きで作られますが、それ以外のほとんどの水彩紙は機械漉きで作られています。
初心者が使い易い水彩紙の銘柄は、コットマン、マーメイド、モンバルキャンソンなど。少し値がはりますが、ワットマンなども良いでしょう。良い水彩紙になると、タワシでゴシゴシと絵具を洗い落とせるほど丈夫です。
スケッチブックに描いてもよいのですが、スケッチブックの場合は、描き上がった作品を額装するたびに、ベリ ベリと剥がさなければなりません。スケッチブックというのは、予定される作品の構図を思案したり、まとめる時に使うものです。水彩紙のスケッチブックは野外スケッチ用です。
水彩紙ブロックというのがあります。10枚程度の水彩紙を糊で固めてまとめて、描き終わった時点で一枚ずつ剥がしていきます。なかなか便利ですが、高級紙しか市販されていないのが残念です。
紙は西洋よりも東洋、日本で発達して来ました。昔の西洋では羊皮紙といって、羊の皮に文字を書いていました。水と木の豊富な日本では、早くから紙が発達しました。
古来、日本では筆記によって古典を学びましたが、西洋では口述で文化が伝承されました。ゆえに、水彩では人物画よりも風景画の方が適しています。日本画も 水彩画の一種です。人物画は油絵やパステルなどの西洋画材の方が無理なく描けます。このことは、それぞれの土地で発展した宗教とも関係があります。
素材の特性を知って制作することもやがて必要となるでしょう。
■筆
水彩画の筆は文具店やスーパーではなくて、画材店で購入しましょう。油絵の項で述べた リセーブルやナイロン混の筆がお勧めです。水彩用の筆は、油絵用に比べてはるかに高級です。筆の太さは番号であらわします。0番は極細、8号は中ぐらいと 番号が上がるほど太くなります。
初めての方は大中小三種類の丸筆と刷毛が一本あれば十分です。
と、ここまで書いて、最近学校の子供たちが使っている筆が良さそうなので、自分でも使ってみようと、近所のスーパーで筆を買ってきました(上図右)。さて使ってみてビックリ!あまりにも使い心地が良くてきれいに塗れる。わずか200円程度でこんな良い筆があるなんて。驚きでした。最近の学童用画材は優秀なんですね。
■パレット
水彩用のパレットは、中が仕切ってあって、合間に絵具を入れるようになっています。水彩絵具はやわらかいので、隣に、はみ出さないようにするためです。パレットに色を並べるときに、虹色の順序で並べます。これは、うっかり隣同士が混ざってしまった時に色が使えなくなる影響を避けるためと、制作中に絵具めがけて失敗して一枡外れて隣の色を筆先に取ってしまった時の影響を少なくするためです。これは油絵も同じです。
スーパーなどで市販されているパレットで十分です。100円前後で入手出来るでしょう。私もこれを使っています。透明水彩絵具とガッシュ双方を使い分けている場合は、パレットを二つ用意します。
枡(柵)に絞り出した絵具は、制作が終わっても洗わずにそのまま保存します。乾燥しても、再度水を着ければ戻ります。
水彩絵具のチューブは油絵具に比べて小さいですが、最後の一滴まで使えるので、意外と多い量です。
油絵具は濃縮ではなくてそのままタイプですので、チューブが太くても厚塗りすればあっという間になくなってしまいます。
■筆洗
筆洗はあらためて用意するほどのものではありません。プラスチックの缶とか古い食器などでも十分つかえます。
市販の筆洗器は、中に仕切りがあって、片方を洗い流し用、片方を薄め用とします。
制作が終わったら筆を洗います。筆の洗い方は油絵筆と共通です。中性洗剤で、泡が白色になるまで繰り返し洗ってから最後にリンスします。
「えっ!?リンス?」…そうです!リンスします。
筆は人毛と同じようにていねいに大切に扱いましょう。