油絵1

油絵具とは、顔料という金属粉を乾性油で練ったものです。

 身近なもので例えてみましょう。釘が錆びると赤茶色になりますね。その錆びた所を粉末状にまですりつぶします。出来上がった粉末に台所のサフラワー油(紅花油)を加えてヘラで練ります。そうして油絵具のライトレッドという色が出来上がります。

 その鉄粉に膠を加えて練ると日本画の岩絵具となり、鉄粉にアラビアゴムという糊を加えて練ると水彩絵具となります。油絵具の油分は顔料をカンバスに定着させるための接着剤の役目をします。現在世界中で使われている油絵具は前述の原型油絵具に蝋などの盛り上げ剤や体質顔料を添加して造られています。

 初めて買った油絵具セットは、まるで虹のように美しくて、チューブの重さと大きさは頼もしく感じます。

 

■絵具の種類

 まず、絵具の名前を覚えてみましょう。初めて買った絵具セットにはさまざまな色のチューブがありますね。

 おおかた、白、黄色、黄土、茶、朱、紅、群青、青、深緑、黄緑、黒のような色が入っているでしょう。そこでこれらの絵具名を解説してみます。

 

□パーマネントホワイトまたはジンクホワイト

 白色には約4種類あります。昔はシルバーホワイトという白絵具しかなかったのですが、人体に有害ということで最近では初心者セットには入っていません。シルバーホワイトの成分は鉛です。その締まった絵肌が特有の物質感をかもし出して、長年愛好されてきました。昔の歌舞伎の白粉のもこれが使われていましたが。肌から鉛が吸収されて、やがて痺れが来ることもあったようです。シルバーホワイトはバーミリオンやコバルトバイオレットとは混色出来ません。

 ジンクホワイトの主成分は酸化亜鉛です。人体に無害で、あらゆる色と混色できます。しかしジンクホワイトは固着力が弱く、厚塗りし過ぎると画面から剥離するおそれがあります。

 チタニウムホワイトの主成分は酸化チタン。どのような色とも混色できて固着力も良いということで、一時たいへん流行しましたが、最近では下火になったようです。その理由は、着色力が強すぎること。ちょっと混ぜるだけで他の色を真っ白にしてしまいます。白濁させる欠点ゆえに敬遠される色です。

 パーマネントホワイトの主成分もチタンですが、前述のチタニウムホワイトの欠点が改良された白絵具です。初心者油絵セットには大抵この色かジンクホワイトかが入っています。

 

■パーマネントイエローまたはカドミウムイエロー

 レモンのような色からオレンジ色まで様々な色相があります。かつてクロームイエローという名の黄色もありましたが、徐々に黒変する欠点ゆえに使われなくなりました。カドミウムイエローは変色も無く鮮やかで美しい絵具ですが、高価なため、現在ではパーマネントイエローがセットに入っています。パーマネントイエローは合成顔料を使った新しい絵具です。混色も自由です

■イエローオーカー

 いわゆるウンコ色。単独では魅力の薄い色ですが、絵具の中でも後述のコバルトブルーと共に最重要色です。黄土色の別名の通り、土を精製して造られます。この顔料を油絵具にすると乾燥が遅いという欠点がありますが、あらゆる色との混色で威力を発揮します。イエローオーカーを混ぜて作った色は、どことなく暖かさを感じさせるので、画家のパレットには必ず並べてあります。

 

■バーミリオン

 昔のバーミリオンは朱肉と同じ、水銀を原料としていました。バーミリオンは温泉地のガスに触れると黒変します。また高価な絵具なので、メーカーも本腰を入れて製造していません。この色も人体に有害です。しかし最近ではこれらの欠点を改良した合成の顔料でバーミリオンそっくりの色相を作っています。バーミリオンヒューとかバーミリオンチントという名でセットに入っています。カドミウムレッドという絵具はバーミリオンと同じ色で化学的に安定した、優れた絵具です。

 

■バーントシェンナ

 茶色です。このページの始めに書いたライトレッドと同じ酸化鉄が主成分です。シェンナというのはイタリアのシエナ地方から由来しています。ローシェンナという色はシエナ地方の粘土質の土の色です。そのローシェンナを焼いて赤っぽくしたものがバーントシェンナです。バーントシェンナは、特に人物画にはなくてはならない重要な色で、主成分の酸化鉄と血液の鉄分とは同じであることから、最もありふれた色でもあります。火星の赤い色も酸化鉄です。

 似たような色にライトレッド、バーントアンバー、インディアンレッド、テラローザなどがあります。概して鉄系の絵具は着色力が強すぎる傾向がありますが、テラローザだけは着色力がほどほどで、扱い易い絵具です。

 

■クリムソンレーキ

 美しい深紅色です。カーマイン、ローズマダーなどもこの仲間です。有機顔料といって、染料を体質顔料に染め付けて造られた一種の合成顔料です。クリムソンレーキに黄色を混ぜると朱色になります。赤色の中では重要な色です。

 ローズマダーはバラ色の美しい色ですが、着色力が弱く、混色すると他の色に食われてしまって、跡形もありません。またシルバーホワイトと混ぜると、鮮やかなピンク色となりますが、時間の経過とともにピンク色が失われてきます。散々な思いをするので、マダー系は使用を避けましょう。レーキ、マダー系の絵具は乾燥が遅くて、乾いたかなと思って、塗って何日経ってから手で触ると色が落ちてギョッとします。

 

■ウルトラマリン

 これを「ウルトラマン」と読んではいけません。きれいな群青色で、昔はラピスラズリという宝石を砕いて油と練ってこの色を造っていました。しかしそれではあまりにも高価すぎるので、フランスのギメという科学者が硫黄化合物から合成して現在のウルトラマリンを発明しました。どのような色とも混ぜられて、変色もしない優れた絵具です。次項のコバルトブルーの代用色はこのウルトラマリンから造ります。

 

■コバルトブルー

 コバルトブルーは前述のイエローオーカーと並んで、絵具中最も重要な色です。不変色で、熱にも湿気にも強く、どんな色と混色しても化学変化を起こさず、安定しています。着色力も程よく、コバルトブルーは絵具の王様です。欠点はやや高価なこと。したがって初心者絵具セットには代用色のコバルトブルーヒューかコバルトブルーチントが入っています。しかし代用色といっても優秀な絵具に変わりはありません。

 セルリアンブルーという青色は、紫陽花のような明るい青色です。成分もコバルトブルーと同じで、この色は混色した時に美しい灰色を出すことが出来るので、余裕がありましたら一本持っていて損はありません。

 

■ビリジャン

 深緑色。水和酸化クロムが主成分です。エメラルドグリーンという色がありますね。これは銅の錆の緑青から造った絵具でしたが、砒素を含んでいるために、それに代わる絵具として考案されたのがビリジャンです。しかしビリジャンの色相はエメラルドグリーンより深く冷たい緑色です。ビリジャンに白と少量の黄色を混ぜるとエメラルドグリーンとなります。しかし現在のエメラルドグリーンはほとんどが合成の安全絵具です。

 ビリジャンは緑絵具中最も重要な色で、これ一本あれば他の緑絵具は要りません。不変色で、あらゆる化学変化に強いお勧めカラーです。例によって高価なのでビリジャンヒューやビリジャンチントの合成色がセットに入っています。もちろんこれらも優秀絵具です。

 画材店ではさまざまな緑絵具が販売されていますが、緑色と灰色は絵具メーカーの儲けどころで、あまり多く購入すると混色能力の無さをさらけ出すように見られてしまいます。たとえばパーマネントグリーンなどは、ビリジャンとパーマネントイエローの混色で作ることが出来ます。

 

■アイボリーブラック

 本来は象牙を焼いて出来たカーボンを原料とした黒でしたが、象牙が入手困難なので、現実には動物の骨を焼いて造られています。不変色ですが、油絵具にした時に乾燥性が悪く、乾くと艶が無くなります。ピーチブラックは桃の実を焼いて造られます。私はいずれも好きでないため、ブルーブラックという合成ブラックを使っています

 

■コバルトバイオレット

 鮮やかな美しい紫色。不変色ですが、混ぜる絵具によっては化学変化を起こして変色します。また人体に有毒でもあります。そこでコバルトバイオレットヒュー。これを使えば安心です。

 ミネラルバイオレットは鮮やかさこそコバルトバイオレットに負けるものの、物理的に安定していて、実用するならこちらです

 マースバイオレットは、チョコレートのような色。紫褐色とでもいいましょうか。あまり出番がありません。

 

 

■その他新しい絵具

 フタロシアニンブルー、グリーン。新開発の合成顔料で、鮮やかな青色と深緑色。メーカーによって、フタロブルーとかウインザーブルーなど様々な名前がついています。白を混ぜると鮮やかな色になります。鉄道標識や道路標識などにも使われている実証済の信頼絵具です。コンタクトレンズの着色にも使われています。

 パーマネントローズは鮮明な紅色。

 以上の3種は、耐光性耐久性ともに申し分なく、お勧めカラーです。

 

 

 

画用液

 

◆揮発性油

 ペトロール。石油を原料とした溶剤。蒸発するのでビンのフタを空けたままにしておくと飛んで無くなってしまいます。

 テレピンはターペンタインとも呼ばれています。松から抽出した植物性溶剤。性質はペトロールと同じです。両者ともそれぞれ独特のにおいがあって、好みで選択すると良いと思います。

 

◆乾性油

 乾性油というのは放置しておくと蒸発せずに固まってしまう油のことです。油絵具は顔料を乾性油で練ったものです。リンシードオイルは亜麻仁油と呼ばれて、油絵には欠かせない画用液です。乾燥後の皮膜が強靭で耐久性があります。乾燥速度も速くて、理想の画用液なのですが、乾燥後にやや黄変するという欠点があります。その点ポピーオイル(ケシ油)は黄変しませんが、皮膜が弱く、乾燥も遅いという欠点があります。絵具メーカーは、色によって練るときにポピーにしたり、リンシードにして使い分けています。

 印象派(モネ、ルノアール、シスレーなど)以前の絵具は手づくりで、画家工房が独自にリンシード油で絵具を練りあげていました。印象派以降は、明るい色彩が多用されたのでポピーオイルが多く使われています。

 

◆調合溶き油

 ペインティングオイル、ルソルバン、オイルビークルなどの商品名で売られています。揮発性油と乾性油をブレンドしたものに乾燥剤を混ぜた溶き油です。油絵具が堅くてスムーズに描けないときに、絵具を柔らかくさせるために使用します。セットには必ず入っています。

 

 

ワニス

 

●ルツーセ

 油絵では、乾燥させてから、その上から絵具を重ねて描き進めます。この時に前回塗った画面の光沢が失せてしまっていることがあります。ルツーセは、そんな失せた光沢を蘇らせて、以前描いたときの状態に戻す艶出しニスです。また、上下層の絵具同士を接着させる役割もあります。

 

●パンドル

 ルツーセが乾燥した上から塗るワニスであれば、このパンドルは溶き油に混ぜて使います。ツヤツヤの光沢画面に仕上げたいときに使用します。

 

●タブロー

 絵を完成させて、乾燥させて、その後一年ほど経ってから画面に塗る保護用ワニスです。油絵は乾燥が遅いので、手で触って乾いていても、実は真の乾燥ではありません。一年しないうちにタブローを塗ってしまうと、後でヒビ割れ画面になってしまいます。それほどタブローの威力は大きいのです。通常油絵を額装する時には、ガラスに入れて鑑賞せず、ガラス無しで展示します。タブローはガラスの役目をします。