水彩について
水彩とは、一般に言われている「透明水彩」のことだけではありません。ガッシュ、ポスターカラー、日本画、水墨画などの水溶性絵具も「水彩」にも加えてもかまわないと思います。
水彩画には、透明水彩と不透明水彩の二種類があります。紙の白い部分を白色に見立てて着彩する技法を透明水彩と言って、原則としてホワイトの絵具は使用しません。インクジェットプリンターも透明水彩の原理です。対して不透明水彩というのは、ホワイト絵具を積極的に使って、油絵のようにグイグイ厚く塗る絵具です。
不透明水彩絵具は別名ガムテンペラとも言われています。中世からルネッサンスにかけて写本の挿絵などにも使われていましたので、かなり歴史の古い絵具です。
透明水彩絵具は1790年ころに英国のウィンザー&ニュートン社によって製品化されました。油絵具は顔料粉と植物油を手で練り合わせて画家の工房で自製 されていましたが、水彩絵具はいきなり商品として登場しました。当時はチューブ入りではなくて固形の絵具だったようです。
透明水彩絵具はイギリスで発明されたものですが、日本でも、淡白を好み水を愛する国民性が手伝って広く普及しました。

図は左から、写本の挿絵、固形水彩絵具(ウィンザー&ニュートン社)、私が描いた透明水彩画(スケッチ)です。
透明水彩には軽い味わいがあって一般に好まれていますが、これから絵を勉強しようという人にとっては技術の難しい絵具です。初めての方には油絵の方が目的に適っています。
油絵の技術が比較的易しいので、小学校でも使わせればよいようなものですが、現実に学童に油絵具を使わせると(油絵具は乾燥が遅いので)服やあちこちにベタベタつけて大変なことになります。道具代も高い上に、厚さ2センチのカンバスを大量に保管する倉庫が必要になります。やはり現実には無理です。
そこで考え出されたのが「学童用水彩絵具」です。「油絵のように描ける水彩」として売り出されました。今日小学校などで使われています。
少し前の日本の画壇では、透明水彩と不透明水彩が派を作ってケンカしていました。
「あんなのは水彩じゃない」「見ればわかるだろ、水彩そのものじゃないか」等々。
しかし現在では両者仲直りをしました。
仲直りをした理由は、両者共通の敵が現れたからです。
すなわち、アクリル絵具。
その世界が いかに閉鎖的で滑稽なのかが分かります。
透明水彩画と不透明水彩画の大きな違いに、背景設定があります。
透明水彩系は背景が暗く設定された絵を描きにくいのです。背景は明るい色ばかりです。対して不透明系では、自由に明るさを設定できます。
絵画の表現上、絵具の性質によって 表現の可能性の半分を放棄するのは残念なことです。
背景とは何でしょうか?
背景とは環境を表します。
子供に絵を描かせると、決まって背景の色を塗り残します。
子供は生存環境など興味がありません。親が居て食べ物が出てきて着る物があって住む所があるのが当たり前だと思っています。
大人だって地球に空気と水があるのが当たり前だと思っていますから、同じようなものですね。
たとえば人間を描きます。絵の背景が朝なのか夜なのか赤なのか青なのかで、表現がまるで反対に変わってきます。
透明水彩画は小品に適します。大作など描くものではありません。
日展に行って水彩室に入ると、がっかりします。損をしたような気分になります、
しかし小品ばかりの個展に行くと「おー、いいじゃん」と感じます。
ちなみにこのサイトの管理者である私(明輪勇作)は不透明水彩絵具で描きます。
油絵はごってりしたフランス料理、水墨画はさっぱりした精進料理にたとえられます。毎日がごってりしていても胃が疲れてしまいますし、さっぱりし過ぎても物足りません。双方の中間をいくのが「新日本料理」である不透明水彩絵具だと思います。
一般に不透明水彩系はそれほど知られていませんが、もっと普及してきて良いのではと思います。